発売日:2004/12/24
原画:すぎやま現象

十次元立方体サイファー 〜蒼き月の水底〜

閉鎖空間における心理変化の観察。
この高額アルバイトに被験者として参加した探偵志望の主人公が、館内で起こる様々な出来ごとを捜査して、謎を解き明かしていくというのが「十次元立方体 サイファー〜蒼き月の水底〜」の大筋です。

まず、館を歩き回り「見る」「さわる」などのコマンドを使って調査をするというのが僕には新鮮で、画面右上の秒刻みに進む現在時刻と、時間とともに進行するイベントは良い緊張感を与えてくれました。

そして、一番のポイントは、かなり本格的な内容であること。
油断していると結構騙されます(笑)
でも、その「あちゃ〜、やられたぁ」ってのが悔しくも楽しくて、ズルズル長時間プレイしてしまいました。
謎が解けた時の爽快感は最高だし、答えにたどり着くまでの考えている時間も面白いし、言うことなしのゲームシステムです。

また、緊張感溢れる会話運びが臨場感バツグンでした。
頓智が効いているとでも言うのでしょうか。
主人公は飄々とした掴み所のない性格と、時折みせる鋭い洞察力で探偵らしいし、IQ180の切れ者大学生も、ズバ抜けた推理力と考察をみせます。
美人女医は相当な曲者で、一見ただのぶりっ子に見える看護婦も油断できません。

ズル賢い、行動が読めない、頭の回転が速い等、色々な種類の頭の良さが見事に書き分けられています。
そのため、誰と会話していても常に言葉の裏を考えてしまいました。
クリックする手を止め、テキスト履歴を見ながらしばしの黙考…。
小さかった頃、ファミコンでこれと同じように、コマンド式の推理ゲームをプレイしていた時の事を思い出しました。
真相に、自らの手で一歩一歩近づいていくワクワク感、ドキドキ感。
ミステリー物の醍醐味です。

以下、ネタバレ感想です。







青と赤、2つのルート
僕は「青ルート」→「赤ルート」の順番でプレイしました。
ちなみに、青ルートの方が好きです。

-青ルート-
何もかもすっ飛ばして、最後に大掛かりな帳尻あわせ。
SFな結末にしばしボー然。
「穂月=京子=翔子」の流れなどは、首を捻りつつ理解しているような状態でした。
でも、そこに運命とか奇跡とか必然とか、泣きそうになるキーワードが見え隠れすると「まぁ良いや」と、考える事を放棄して、物語の余韻を楽しむことに専念していました。
上手い終わり方ではないのですが、不思議とケチを付ける気にはなりませんでしたね。

-赤ルート-
青ルートから一転、現実路線のハードな展開にヘビーな結末が痛気持ち良いシナリオでした。
しかし、現実的なミステリーとなれば、細かい部分にまでチェックを入れたくなってしまうのがオタクってもんです。
青ルートの時は、発想の数だけ逃げ道がある状態がゆるされましたが、現実路線な赤ルートの場合は、あまり突飛な事をやると納得し難いのは当然のこと。
幽霊の正体が3Dの映像だったというオチにはガックリきました。
一番最初に冗談混じりに考えて、すぐさま「んなアホな」と却下した可能性が、まさか答えだったなんて笑えない冗談です。

拓斗が死ぬ間際に言った「…あれ? このリモコン……。電池、入ってないや…変なの…」という一言が僕にとってのせめてもの救いでした。
実は、3D装置は壊れていて、それなのに幽霊の像が出ていたというオチなのですが、こういう理屈抜きの演出はちょっと好きです。
最後の最後にホッとさせられました。

ルートは1個で良かった
終わってみて思うのは、「2ルート作らずに、どちらか一方にしぼれば良かった」ということばかりです。
もしくは、ルート毎にテキストを完全に挿しかえるべきだったと思います。
途中に張り巡らされた伏線や謎が、混ざり合って、一方では解決されるも他方では放置されている事が多かったのは企画に無理があったからなのでしょう。

アイテム「赤と青の真実」の文面から察するに、一つの事件でも、見る角度を変えてみる(もう一度最初から考え直してみる)と、違った答えにたどり着くのだ。
と、いうのをやりたかったのだと思いますが、僕が想像していたのとはちょっと違ったみたいですね。
僕は、一周目で表に出てこなかった側面が、別ルートで明らかになるとばかり思っていたので、単にパラレルワールドな世界観だとわかってがっかりしてしまいました。
同じ設定にもかかわらず、まったく違った展開をみせ、しかし犯人の動機だけは一貫している。
こんな内容になっていれば、ADVの特性を生かした名作になっていたかもしれないだけに残念です。

総評
常に目先の、もしくはずっと先の「謎」を追いかけ続けることで、一文一文を読む時の集中力はまったく違ってくるものです。
本作が、普通のアドベンチャーやサスペンス物のADVだったら僕の評価はもっと低かったと思います。
僕が楽しめたのは、事前に、「絶対予測不可能」や「ミステリー」といった言葉を耳にしていた事と、自ら捜査している感覚が味わえるゲームシステムのおかげです。

結末こそお粗末でしたが、それを知る前の僕は「あーだ、こーだ」と一人ぶつぶつやりながら、たった1つの真実を追い求めて、ワクワク、ドキドキの連続という至福の時間を過ごしていたわけですから。
オールクリアした今となっては、少々複雑な気分ですけどね…。
でも楽しかったのは本当。
特に一周目は最高でした。

本作に限らず、読みながら推理していけるミステリー物って、物語の秀逸さとは別次元のところに、面白さがあるような気がします。

おまけ 〜これは納得できん!! と思ったこと集〜
プレイしていて、細かい部分は目を瞑るとしても「これはあんまりだ」とか「結局なんだったのか?」とか、感じた部分を列挙してみます。
「だよねー」と共感したり「いや、違うだろ」と批判したり、適当に活用していただけたら幸いです(笑)

・二階の窓の外で物音がしたという証言は何だったんだろう?
・琴風ゆみって何者?
・大黒香奈の背中の傷は何だろ?
・三上翔子が拷問??らしき事をされてる夢はどういう意味があったのか…?
・途中で館が変わったんだけど、全員に気がつかれることなく移動させるのは無理があるんじゃない?(本作の舞台は『月光館』ですが、推理小説で『月光亭殺人事件』というのがありました。館が引っくり返るという、本作に劣らぬとんでもトリックの小説です)

・ベランダでゆみさんとキスした時、背後にいたのは誰?
・館移動後に待宵草を「引っこ抜かれた」と推理しているが、気候の関係でもともと生えてないならそんな推理あり得ないんじゃ? 引っこ抜いた跡なんてないだろうし…。

written on 2005.01.19

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