発売日:2006/5/26
シナリオ:片岡とも/木緒なち
原画:秋乃武彦/あんころもち

Scarlett 〜スカーレット〜

廊下で主人公が銃を突きつけられた瞬間。
いつの間にか、物語に引き込まれていたことに気がつきました。
お約束の展開に僕が思わずニヤリと口元を緩めたとき、主人公もまた、ヒロインとの再会を喜び微笑んでいたのでした。

非日常を求める17歳
片岡ともさんが書く、17歳は、共感しやすいように思います。
「悩んでる俺って、格好良い」といったような、みっともないナルシシズムはないし、それを演出する、酒、煙草、SEX、といった軽薄な小道具も出てきません。
純粋に、若さゆえの漠然とした不安や悩みや虚無感だけが伝わってきます。
学校を中退し、期限付きで旅に出た主人公(大野明人)は、日常の中で道を外れた行いをするのではなく、日常そのものから外れようともがいていました。

なんとなく過ぎる毎日や、将来の見えた自分自身ってのを、無性に哀しく思えた。

そのときに期限付きではありますが、サッと旅に出た、彼の行動力はたいしたものです。
きちんと期限を守って学校に復帰するところなども、誠実で好感が持てます。
健全に落ちこぼれているんですね。
憎めない男です。

冒頭、明人は、旅の終わりに沖縄へとやってきます。
沖縄なら、本物の銃を買えると聞いたからです。
しかし、彼の淡い希望は早々に打ち砕かれました。
それらしき人のいる、それらしき場所まではいけたものの、誰も子供である主人公の話に取り合ってはくれなかったのです。

只、銃が持つ、非日常の匂いに憧れていただけだった。
結局、1年も旅をしたのに何も変われなかった。
…何も変われる要素がなかった…。

何も変われる要素がなかった、という言葉には頷かされました。
大人びていることと、擦れていることは違います。
そのことを理解した上で17歳の青年を描くからこそ、共感できるし、「もし自分が同い歳のとき、これくらいのことが考えられていれば」という、ある種の憧れも感じられるわけです。
もちろん、僕に関して言えば、学校を放り出して旅なんかに出れば、無茶苦茶な人間になったであろうことは明らかだし、旅に出ていたほうが良かったとも思いません。
でも、旅に出ることなく「旅だけでは何も変わらない」ことを分かってしまうのと、旅に出て、それで「何も変われる要素がなかった」と気付くのでは大きな差があるように思うのです。

本作で描かれる主人公は、大人になったプレイヤーから見れば、まだまだ幼いのかもしれません。
しかしながら、高校生だったときの自分を振り返ってみると、明人の旅に出た1年間は、十分に非日常に満ち溢れていました。
そんな主人公だからこそ、僕は、感情移入して読み進めることができたのだと思っています。

あえて交渉、これが良い
本作の、もう一人の主人公(和泉九郎)は、非日常の中で生まれ育ち、高級諜報員として忙しい日々を送っています。
高級諜報員とは、世話しなく世界中を飛びまわり、法律とは無縁で、一瞬で何万ドルもの金を動かし、大統領や外交官を差し置いて世界の重要事項を交渉し決定する。
そんな非日常な人たちのことです。

この設定だけでもかなり格好良いのですが、やはり僕は、九郎の「無闇に力をひけらかさない」仕事ぶりが気に入っています。
荒事に関しては、「そんなことは軍やSWATにさせればいい」とキッパリ。
一方で、必要とあらば、ためらいなく相手を撃ち殺すクールさも持ち合わせており、九郎が口先だけの男でないことも感じさせてくれます。
そもそも、奮う力がないのでは台無しですからね。
力はあるが、その上で「あえて」交渉という血の流れないやり方をするのがポイントです。
本作では、さらに一歩踏み込んで、力があるからこそ出来ることだとも書かれていますが、こうなると九郎がいよいよ格好良く思えてきます。

結局、彼は最後まで交渉で問題を解決し続け、水面下の戦いに徹し切りました。
派手なことは何1つなく、しかし、僕が不満を感じることはついに1度もありませんでした。
僕は、爆発や戦争や暴力を非日常と感じるには、少しゲームをやり過ぎてしまったようです。
本作のような、波風立てないやり方が凄く斬新に思えました。

ところで、僕は、明人に感情移入することで、九郎に憧れを抱き、次第に九郎に感情移入する、という順序で本作を読みました。
九郎に感情移入しているようで、その実、九郎を見つめる眼差しは常に明人のものでした。
僕は、逆はないように思います。
明人を飛び越えて九郎に感情移入すると、つまり、九郎の視点からだと、明人に憧れる理由が不十分です。
物語の最後、九郎は明人に「非日常と日常の境界を越えようとするお前に惹かれていたのかもしれない」と語りますが、読み手に納得させるには少し描写不足だったと思います。

総評
握り返す手は、もうほとんど力が無くて…。
それでも、絶対に離れなくて…。

片岡ともさんは、本作に限らず、ここぞという場面では、ほぼ100%、この「〜て。〜て。」と韻を踏んだ文章パターンを使ってきました。
ずっと前からそうでした。
でも、分かっていても、毎回、ぐっと来るものがあります。
やはり、使いどころが絶妙なのと、そこにたどり着くまでの過程と文章リズムとがガッチリ噛み合っているからこそ、ここまで感動させる文章になるのでしょう。

ふと空を見上げるときのような…。
夜明け前に、ふらりと散歩に出かけたくなるときのような…。
酷く感傷的な気持ちにさせてくれる、心に染み入る文章でした。

いやぁ、良い作品をクリアした直後って、それが夜明け前だったりすると無性に外の空気が吸いたくなります。
どんなに素晴らしい映画でも小説でも、この感覚だけは味わえないと思うのですが、これは僕がオタクだからなのでしょうね。
評価はねこねこさんの遺作なので少し"オマケ"しときました。
本作は、あたり前の日常の大切さを、作品を通して主張し続けたねこねこソフトさんだからこそ出来た作品だったと思っています。

そういえば、"オマケ"はねこねこソフトの専売特許でもありましたね。
今回も、ファンディスク級の大ボリュームで、最後まで楽しませてもらいました。

written on 2006.06.05

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