沙耶の唄 【さやのうた】
耕司が井戸に落ちた絵を見て、『ドラクエ』シリーズの井戸魔人を思い出した。
医科大学を舞台にした男女4人の恋物語を描いた18禁アダルトアドベンチャーゲーム。
交通事故で生死の境をさまよった匂坂郁紀は、いつしか独り孤独に、恐怖と嫌悪だけに塗り込められた世界を生きるようになっていた。
彼に親しい者たちが異変に気付き、救いの手を差し伸べようにも、そんな友人たちの声は決して郁紀に届かない。
そんな郁紀の前に、一人の謎の少女が現れたとき、彼の狂気は次第に世界を侵蝕しはじめる。
シナリオを「吸血殲鬼ヴェドゴニア」「鬼哭街」の虚淵玄氏、原画を中央東口氏が担当。フルボイス対応。
本文
まず、驚いたことにテキストがいい。 簡潔でありながら凄く読みやすくプレイヤーを『沙耶の唄』の持つ狂気が渦巻く世界へと引きずり込んでくれる。 今まで何本ものエロゲーをプレイしてきたが、これほど読みやすいテキストは初めてだ。 この業界のことは分からないが、これだけの文章を書ける人はあまりいないのではないか? エロゲーではないが、『ひぐらしのなく頃に』と同じくらいプレイヤーを物語の世界に誘ってくれる。 『Fate/Stay Night』も悪くはないが、やたらと専門用語が出てきたり、簡単なことをわざと難しく言っているような気がしてちょっとなぁ…。まぁ、悪くないんだが…。
プレイ時間が短い。 正直、5〜6時間もあればクリア・コンプリートできるはず。 選択肢も2〜3個しかない。 また、設定や展開しだいではいくらでも話を広げることも出来ると思うが、そういった余計な考えを排除し、短い時間の中にも凝縮してキッチリとまとめられている。 下手にプレイ時間が長い作品をするよりも、高い満足感が味わえるはず。
この作品を語る上でよく言われるのが、『グロテスク』。 だが、スプラッター映画特有の血が大量に吹き出したり、人体損壊シーンなどではなく、どちらかというと、『悪魔のいけにえ』、『羊たちの沈黙』、『ハンニバル』に近い生理的な気持ち悪さといったところか。 まぁ、俺はグロに対して耐性が大いにありにありまくっているので無問題。 グロなシーンにモザイクを入れることが出来るらしいが、モザイクを入れたらこの作品の魅力半減なので入れない方がいい。っか、そんな機能いらん。
キャラクターの絵が他のゲームみたいないかにも『萌え』な絵じゃなかったのもよかった。 もし、『萌え』な絵だったら、評価は一気に下がっていたはずだ。 どこか、劇画タッチの絵がうまくシナリオ・音楽とマッチしていてよい。 しかし、登場人物の瑶の立ち絵の乳が垂れて見えるのは気のせいか……。
音楽も殆どがダーク系の曲ばかりなのも◎。 明るい曲なんか存在しない。 いや、存在してはいけない。 全体的に、かなり上手く作られているだけあっていやでも恐怖が増す。 また、効果音もいい仕事している。
エロはあってないようなもの。 まぁ、あえて書くほどの内容でもないか。 ストーリーの中に上手く溶け込んでいて、違和感を感じなかった。
エンディングは全部「True END(といっていいのか?)」、「病院 END」、「耕司 END」の三種類。 どれがいいかは好き嫌いが分かれるが、個人的に「病院 END」が好きだ。 詳細は避けるが、沙耶の郁紀に対する想いが表現されているのがいい。 こんな風に自分のことを思ってくれる純粋な娘いないよ、本当に。
総評
久しぶりに質の高いゲームだった。 狂った世界で描かれる破滅的でありながらも、狂おしいまでの純粋すぎる愛の形。正に純愛といっていいだろう(正直言うと、俺はこの『純愛』とか言う馬鹿げた言葉が嫌い。 薄っぺらで感動が残らないクソみてぇな某映画がヒットしたのも余計腹が立つ)。 郁紀と沙耶にとっては純粋な愛が、他の正常な人たちから見れば異常としか言えない行為・世界に映る…。 純粋さゆえに狂気の域にまで達してしまった愛…。 郁紀と沙耶に待っているのは別離しかない。 この作品、珍しく褒めまくっているが、グロテスクな描写やカニバリズム(食人行為)など、一般的な作品を好む人には受け付けないだろうな。 けど、プレイしていくうちにホラーよりも恋愛の色が強い作品だと気付くはず。 また、この作品はラヴクラフトの『クトゥルー神話』と手塚治の『火の鳥』を知っていれば、より深く物語を楽しめるらしい。 終了後、発売元のNitroplusのホームページに行って、この会社があの『デモンベイン』を作った会社だと知った…。 ちなみに『デモンベイン』はやったことがない。
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